エンジニアのひよこ_level10

毎日更新してた人。たまに記事書きます。

【小話】汚れたサンドバッグ【374日目】

注意

思いつきで書いたものです。

込められた想いはどこまで届くかな?

お話書くのは2年ぶりなのでお手柔らかに。

汚れたサンドバッグ

あるところに、下級貴族と奴隷がいました。

下級貴族は、仕事ではより上位の貴族に媚び、舐められないようにする日々。

仕事中はたくさんの苛立ちが溜まっていました。

そんな貴族が自宅に帰ってすること、それは奴隷を殴り、苛立ちのはけ口とすることでした。

 

奴隷は少年でした。
いたって普通の過程で育ち、学校に通い、子どもらしいごっこ遊びをしながら、テストではちょっといい点数を出して、両親に褒められる。

そんなことに幸せを感じる少年でした。

そんなある日、親の都合で家庭が引き裂かれます。

彼は奴隷市に流され、そして今の貴族に拾われます。

 

少年は理不尽な暴力にも必死に耐えました。

『きっと僕が悪いんだ、僕がもっとちゃんとしたら、きっとご主人様も僕を殴ることはやめてくれる』

けれども、頑張っても頑張っても、生活は何も変わりませんでした。

貴族に任された仕事をいっぱい頑張って、素敵な成果を残しても、無理やりな理屈で殴られるばかりでした。
むしろ、心なしかいつもより酷かったように思います。

 

少年は悩みました。

『なんで僕は殴られてるの?頑張ってもだめなら、どうすればいいの?』

今日も1日、彼は殴られ続けました。

ただ、いつもと違ったのは、
彼が殴ってる貴族の方を観察していたことです。

『あれ?なんでこの人、笑いながら、こんなに必死に殴ってるの?』

殴ることになんでこんなに焦ってるんだろ。

そう思ったら、ふと、笑いがこみ上げてきました。

 

『はは、滑稽だね』

『あ?』

『僕ごとき殴るのに必死になってるの?ああ、そっか。仕事ではいつも見下されてるから、見下す相手がほしいんだね』

『っ!ふざけんな!』

その日、一番力の籠もった蹴りが飛んできた。

痛かった、苦い液が何度も口に登ってきた。

でも、その時の貴族の顔は真っ赤。怒り心頭って感じだった。

『ああ、やっぱり滑稽』

『つっ……お前と話すとイライラする、さっさと部屋から出ていけ』

足を引きずりながら、僕は無言で部屋から出た。
余計なことを言って殴られるのは、僕も勘弁だから。

 

また次の日も殴られた。でもあの日からの僕は違う。

『あはは、必死必死、大変だねー』

『こいつっ……!』

殴られながら、なんども煽り続けた、その時は僕の苦し紛れの抵抗だったのかもしれない。

 

しかし、次第にその効果は現れた。

一週間後、僕が呼ばれることはなかった。

『ああ、そうか』

少年は気がついたのだ。

『嫌なことされたら、それ以上に相手を不快にさせてやればいいのか』

『誰も汚れたサンドバッグなんて殴りたくならない』

『近寄りたくもない』

『不快なことをしてくる相手に、わざわざ近寄りたくないのは、相手も同じだよね』

その日から少年は、ことあるごとに嫌味を使い、相手を不快にさせてきた。

すると、次第に暴力はなくなり、屋敷から追い出され、そして自由を手にした。

 

ああ、欲しいものを手に入れるのは簡単だ。

相手を、不快にさせればいいだけだ。

あとから聞いた話だと、あの貴族の家は、何人もの奴隷が耐えられず、自殺していたらしい。

だが、少年は生きた。今も、これからも生き続けるだろう。
彼は生き残る術を手に入れたのだ。

もう、怖いものなどない。
彼は誰からも怯える必要のない生活を送ることができるだろう。

そう、誰一人仲間のいない世界で。