注意
思いつきで書いたものです。
込められた想いはどこまで届くかな?
お話書くのは2年ぶりなのでお手柔らかに。
汚れたサンドバッグ
あるところに、下級貴族と奴隷がいました。
下級貴族は、仕事ではより上位の貴族に媚び、舐められないようにする日々。
仕事中はたくさんの苛立ちが溜まっていました。
そんな貴族が自宅に帰ってすること、それは奴隷を殴り、苛立ちのはけ口とすることでした。
奴隷は少年でした。
いたって普通の過程で育ち、学校に通い、子どもらしいごっこ遊びをしながら、テストではちょっといい点数を出して、両親に褒められる。
そんなことに幸せを感じる少年でした。
そんなある日、親の都合で家庭が引き裂かれます。
彼は奴隷市に流され、そして今の貴族に拾われます。
少年は理不尽な暴力にも必死に耐えました。
『きっと僕が悪いんだ、僕がもっとちゃんとしたら、きっとご主人様も僕を殴ることはやめてくれる』
けれども、頑張っても頑張っても、生活は何も変わりませんでした。
貴族に任された仕事をいっぱい頑張って、素敵な成果を残しても、無理やりな理屈で殴られるばかりでした。
むしろ、心なしかいつもより酷かったように思います。
少年は悩みました。
『なんで僕は殴られてるの?頑張ってもだめなら、どうすればいいの?』
今日も1日、彼は殴られ続けました。
ただ、いつもと違ったのは、
彼が殴ってる貴族の方を観察していたことです。
『あれ?なんでこの人、笑いながら、こんなに必死に殴ってるの?』
殴ることになんでこんなに焦ってるんだろ。
そう思ったら、ふと、笑いがこみ上げてきました。
『はは、滑稽だね』
『あ?』
『僕ごとき殴るのに必死になってるの?ああ、そっか。仕事ではいつも見下されてるから、見下す相手がほしいんだね』
『っ!ふざけんな!』
その日、一番力の籠もった蹴りが飛んできた。
痛かった、苦い液が何度も口に登ってきた。
でも、その時の貴族の顔は真っ赤。怒り心頭って感じだった。
『ああ、やっぱり滑稽』
『つっ……お前と話すとイライラする、さっさと部屋から出ていけ』
足を引きずりながら、僕は無言で部屋から出た。
余計なことを言って殴られるのは、僕も勘弁だから。
また次の日も殴られた。でもあの日からの僕は違う。
『あはは、必死必死、大変だねー』
『こいつっ……!』
殴られながら、なんども煽り続けた、その時は僕の苦し紛れの抵抗だったのかもしれない。
しかし、次第にその効果は現れた。
一週間後、僕が呼ばれることはなかった。
『ああ、そうか』
少年は気がついたのだ。
『嫌なことされたら、それ以上に相手を不快にさせてやればいいのか』
『誰も汚れたサンドバッグなんて殴りたくならない』
『近寄りたくもない』
『不快なことをしてくる相手に、わざわざ近寄りたくないのは、相手も同じだよね』
その日から少年は、ことあるごとに嫌味を使い、相手を不快にさせてきた。
すると、次第に暴力はなくなり、屋敷から追い出され、そして自由を手にした。
ああ、欲しいものを手に入れるのは簡単だ。
相手を、不快にさせればいいだけだ。
あとから聞いた話だと、あの貴族の家は、何人もの奴隷が耐えられず、自殺していたらしい。
だが、少年は生きた。今も、これからも生き続けるだろう。
彼は生き残る術を手に入れたのだ。
もう、怖いものなどない。
彼は誰からも怯える必要のない生活を送ることができるだろう。
そう、誰一人仲間のいない世界で。